グローバリズムの中のリージョナリズム

     ――現情勢の一特徴――


                  斎藤 明

はじめに

世界資本主義は戦後第二期に入った。

「グローバル資本主義」は「G7」に代表される先進諸国の協調によって維持されることにみられるように、第二次世界大戦以降、「体制間対立」という階級闘争の転化形態のもとで、プロレタリア革命に対抗し身構えつつ資本主義が生み出し育て上げてきた世界市場を前提とし、かつ、ソ連の崩壊と中国のW加盟という新たな歴史的局面をくぐり、旧「社会主義圏」を世界市場へ再包摂することによって文字通り世界資本主義の土台の上に成立することになった。内容的には、七十一年八月ドル危機(ニクソンショック)から、八十年を前後する戦後第二の革命期の終焉を経て、G5体制が確立される八十五年をメルクマールとして戦後の世界資本主義は第二期に入った。基軸通貨であるドルの力が徐々に衰え、逆に急速に強化された円に移行するかという声があがったが、実は円は基軸通貨とはならなかった。余剰資金があふれただけで、資本力が抜きん出たわけではないので、ドルの力が低下したといえども円がドルを超えたわけではなかった。

SDRがG5平均加重によって決定される体制が形成されたことと相まって、ついに通貨基軸国を持たない電網市場の上に成立する国際通貨制度が築き上げられつつある今日、資本主義諸国が形成している世界市場の質的変質により、逆に個々の資本主義諸国が世界市場網に強力に包摂され規制された世界資本主義として、言葉の抽象的意味ではなく、現実に世界資本主義の時代に入ったのである。

ソ連の崩壊と世界市場への再包摂はこの変化の一環であり、中国のWTO加盟もこの過程の中にある。

 この世界資本主義の一層強まる世界的制約を部分的に掣肘せんとするものこそリージョナリズム 【regionalism】=地域主義(ブロック化)である。現在WTO加盟国の九十%が何らかの地域協定に参加している。

 今年の十二月にASEAN首脳会議が日本で開かれる。この会議が何故日本で開催されるのか。そして、政府が何故「東アジア共同体」構想を提起する予定とされているのか。このことの背景と現在の流れを掴む必要がある。われわれの階級的対外政策を考えるに当たって、東アジアの政治経済情勢の分析は重要な課題である。重要と思われる点を追ってみることにする。

ASEANの現在

欧州共同体を後追いしながら「ASEAN経済共同体」=AEC構想が十月七日にバリで開かれた第九回ASEAN首脳会談で一歩進むこととなった。すでに六月の外相会議で、AECとともに、安全保障問題の平和的解決を目指す「ASEAN安全保障共同体」(ASC)構想の推進を確認し、経済、政治両面で統合を深化させる基本方針が明確になっていた。

東南アジア友好協力条約(TAC)=バリ条約にはインド、中国が署名した。さらに「ASEAN協和宣言2」が採択された。これは、政治、経済、安全保障をアジア単位で築こうという構想である。安全保障の項目が入っていることにしっかりと注目しなければならない。

「十月にインドネシア・バリ島で開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)の第9回首脳会議で、ASEAN安保共同体の実現を含む『ASEAN協和宣言2』が採択されることが、十三日までに固まった。七十六年以来の大きな枠組みの改革となる。国際テロへの対応や、地域内の紛争解決、平和維持機能の充実を図り、新たな地域共同体の形を求める。

ASEAN外交筋によると、新宣言採択の方針は、十二日までインドネシア・ロンボク島で開かれた高級事務レベル会合で、加盟十カ国の賛同を得た。

 協和宣言は、七十六年にバリ島で開かれた第一回首脳会議で採択され、同時に採択された『東南アジア友好協力条約(TAC)』や、六十七年にASEANが設立された際のバンコク宣言と並び、ASEANの基本姿勢を示すものとされる。

 新しい宣言は(1)政治・安全保障協力(2)経済協力(3)社会・文化協力の三本柱を軸に、ASEAN共同体づくりを目指す。中でも政治・安全保障協力は、すでに二十年を目標として創設に合意しているASEAN経済共同体に加え、安保共同体の実現を目標としている。

 安保共同体は、軍事同盟を目指すのではなく、平和と安定に対する脅威に共同で平和的に対処しようとするものだ。具体的には、国際テロや国境を越えた犯罪への一致した対応、地域紛争の平和的な解決、紛争後の復興協力、平和維持活動などが考えられている。」(asahi.com 二〇〇三・九・十四)

「十月上旬にインドネシア・バリ島で開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で、中国とインドが、ASEANの基本条約である東南アジア友好協力条約(TAC)に署名することが、二一日までに固まった。ロシアも加盟を申請している。日本は米国との同盟関係を重視する立場から加盟の予定はなく、ASEANとの協力関係で周辺の大国からさらに後れをとることになる。

TACは、東南アジアの政治・安全保障協力の原則をうたったもので、主権・領土の相互保全、内政不干渉、紛争の平和的解決と武力行使の放棄などを定めている。ASEANは安全保障の確約を得ることで、中国とインドとの経済的な関係を強化することが可能になる。

 TACは、七十六年の第一回バリ首脳会議で採択され、現在ASEAN十ヶ国とパプアニューギニアが加盟している。

 インドネシア外務省筋によると、ASEANと中国、インドは十月八日にTACの署名式を行う。地域の政治的な安定を図るため、ASEANが昨年から周辺大国に加盟を打診。その結果、まず中国が六月のプノンペンでのASEAN拡大外相会議で加盟の意向を表明した。その後、中国との対抗上、インドが加盟を決めた。

 ロシアも加盟の意思を示しており、来年六月のASEAN外相会議の際に正式加盟することを目指している。

 ASEANに対しては、周辺大国からの接近が盛んだ。特に中国は、十年までに自由貿易協定(FTA)を完成させる枠組みに合意するなど、一歩先んじている。インドも今回の首脳会議で、FTAを含む包括的経済協力協定に調印する見通しだ。」(asahi.com 二〇〇三・九・二二)

 首脳会談に向けて上記のようなニュース報道がなされていた。

 十月七日、バリで開催された第九回ASEAN首脳会議において、ASEAN首脳が署名した「ASEAN協和宣言2」を見てみよう。

ASEAN共同体は「政治・安全保障」、「経済」及び「社会・文化」という三つの柱による協力から構成される。これらは緊密に組み合わされ、永続的な平和、安定及び地域で共有された繁栄の目的のために相互に再強化するものである。

ASEANは引き続き加盟国間及びそれらの人々の間でより緊密なかつ互いに利益を受ける統合確保を継続し、ダイナミックかつ弾力的なASEAN共同体実現のために、地域の平和、安定、安全保障、開発と繁栄を促進する。」

「大胆で、実践的で一体化した戦略を通じASEAN経済共同体実現のために、内部の経済統合及び世界経済とのリンケージを深化・拡大することにコミットする。

ASEANは様々な分野での協力の深化・拡大を通じた更なる相乗効果を引き出すために、ASEAN+3プロセスで既に得ているモメンタムを増強する。

ASEANは貿易・投資の強化及びIAIとRIAを通じ、既存のイニシアティブから生じる相互便益的な地域統合及び対話国とのそれらに向けた機会を強化する。

ASEANは引き続き社会福祉の共同体を育て、共通の地域同一性を促進する。」

「AECは、二〇二〇年に財貨、サービス、投資、資本の自由な流れ、平等な経済開発と貧困・社会経済格差の削減が存在する安定し繁栄し競争的なASEAN経済地域を創造する『ASEANビジョン二〇〇二』の経済統合という最終目標を実現するものである。 」

 緩やかな形であるが二〇二〇年を目標に経済共同体を形成するとしている。これは欧州でみるならばECにあたる。

かくしてASEANは政治・経済・安全保障にわたる共同体を目指して動き出した。

 ASEANは「域内南北問題」を抱えている。一人当たり年間所得格差は、シンガポールとミャンマーを比較すると二〇〇倍になる。この格差は中国とASEANの貿易、中国のASEANへの直接投資の拡大によって更に拡大される傾向にある。ASEANの経済的結合であるAFTA(ASEAN自由貿易地域)は二〇一五年までに域内関税を撤廃することにして、オリジナルメンバー六カ国はすでに二〇〇二年に撤廃した。しかし、構造的な偏りが大きい。シンガポールとマレーシア間の貿易が域内貿易総額の四五%を占める。

 二〇〇一年九月のニューヨークテロ事件の影響を受けて世界の直接投資は前年比で半減した。ASEANにおいても、五カ国(タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリッピン)で百九十一億ドルとなり、一九九五年のピーク時期の三割以下となった。中国は前年比二七・四%と伸び八百四十億ドルとなった。AEANの四倍である。企業の進出は、オリジナル六カ国から後発国へ向わずに中国市場へと現在向っている。ASEANの南北格差は中国のASEAN接近と、経済力の発展によって更に拡大されようとしている。このことは、これからのASEANの重要な課題となるであろう。

 中国とASEAN 

「国際政治の民主化」や「多極世界の創出」をキャッチフレーズにしてASEANに急接近している中国は、国際競争力の向上を背景に、隣接地域を市場として開拓する外交を強めている。九七年の金融危機の折に、日本を中心とした「アジア銀行」「アジア基金構想」がクリントンの反対にあって潰された経験をもつASEAN諸国の「アメリカの覇権」への懸念を利用して、この地域のヘゲモニーを一挙に握ろうとしているのである。ちなみにアメリカは二〇〇二年十一月メキシコのロスガボスで開かれたAPEC総会でASEAN・アメリカFTA=「ASEANイニシアティブ計画(Enterprise for ASEAN Initiative)」をうちあげた。

 二〇〇一年十一月にWTO加盟を認められた中国の朱首相は、同月、ブルネイで開催されたASEAN・中国首脳会議で、ASEAN・中国FTA(自由貿易協定)構想を提案し、十年以内にASEANと中国はFTAを創設することが合意された。これにより、世界人口の三分の一近い約十八億人もの巨大統合市場が近い将来生まれることになった。

中国はAPECとASEANとの自由貿易協定構想とは対立矛盾しないと声明つつ、ASEANに急接近してきたが、更に上海協力機構を打ち上げた。

「中国の温家宝首相は二十三日北京で開いた中ロと中央アジア四ヵ国でつくる地域協力組織、上海協力機構の首相会議で、加盟六か国間で将来的に自由貿易協定(FTA)を締結することを提案した。

 中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTA締結に向けた枠組みづくりを推進したのに続いて、この地域でもイニシアチブを発揮していく姿勢を示した。製造業などで国際競争力を高めている中国は、近隣諸国とのFTA推進は自国の貿易や経済発展に有利との計算がある。ただ加盟国間にはFTA締結について温度差もあり、締結までには時間がかかるとみられる。」【北京九月二十三日共同】

 ASEAN十カ国、アジアNIES(韓、台、香、シンガ)、日中の域内の輸出依存度は八〇年代後半の三割台から九〇年代なかばに五割の大台まで高まった。九十年代後半のアジア通貨危機に伴う経済混乱とアメリカのIT部門の失速による不況でこの比率は四割台に落ちかけたが、ふたたび五割の大台に近づきつつある。

EUは六一%、NAFTAが五五%(二〇〇〇年)であるから、中国のWTO加盟以降、この地域内の交易が活発になっていることを示している。

「東アジア共同体」構想

日本はこのASEAN全体のGDPの六割を占める。日本政府の動向が今問題の焦点となっている。

 このような動きの中で浮上してきたのが「東アジア共同体構想」である。

 マレーシアの戦略国際問題研究所(ISIS)のノルディン・ソフィー所長の呼びかけで、八月クアラルンプールで第1回東アジア会議(Congress)が開かれた。ASEANほか日本、中国及び韓国の十三ケ国から合計約一五〇〇人、日本からは五十人が参加した。

 会議の中心テーマは、東アジア共同体の構築であった。開会冒頭の基調演説で、マハティール首相の基調演説において、十二年前に打ち上げたが米国の反対で挫折した東アジア経済グループ(EAEG)構想を再度呼びかけた。東アジアにおける経済的、政治的共同体の構築を目指すべきであると主張した。

 日本政府は、アメリカ政府との関係に悩みながらも「東アジア共同体」の流れに一応乗っておく方針を決めた。財界はこぞって東アジア共同体のヘゲモニーを取ることを要求している。十二月に東京で開かれるASEANとの特別首脳会議での採択を目指している「日本・ASEANビジョン」(仮称)の草案に二五年以内に「東アジア共同体」の創設を目指すと明記した。

 日本の企業の中国市場への進出は急速に拡大しつつある。

それにともなって、ASEAN域における直接投資の構造を変化させつつある。ASEAN各国は、日本企業の直接投資、さらに開始された中国の直接投資を如何に導入するか躍起になっているのである。「東アジア共同体」は、このような資本の流れを基礎に政治的思惑がからみつつスポットがあてられるようになっているのである。

 このマレーシアのマハティールの「東アジア共同体構想」と別に、もう一つの「東アジア共同体構想」がある。これはロンドン大学の森嶋教授が掲げているもので、具体的に議会構想まで含まれている。経済学者森嶋通夫教授の「東アジア共同体(East Asian Community)」論は、九七年中国の南開大学での講演で提起されたものである。(『日本にできることは何か----東アジア共同体を提案する』岩波書店、二〇〇一年)。   

この「東アジア共同体」論は、日本経済再生のために、アジア経済との結合を説くという性格のものである。

東アジア共同体議会は、中国五票、台湾一票、南北朝鮮各一・五票計三票、東西日本各一・五票計三票、総計十二票の地域代表からなり、共同体政府の首都を、(日本から独立した)沖縄におく。当面の「建設共同体」から、いずれは「市場共同体」を目指すというものである。

これはEECからEC、さらにEUと段階的に進んできた欧州の流れを東アジアに於いて構想するというものである。中・台問題、北朝鮮問題、更には沖縄問題と現実的問題が山積していることに対する解決力がどの程度のものであるかということが、「ユートピア」として評されるのであるが、そして、この構想がどの程度政財学界にて受け入れられているのかはわからないが、リージョナリズムのひとつの方向性を示しているものである。

われわれは、労働者の国際的連帯を追求することと同時に、現在進行している「東アジア共同体」の流れに注目し、如何に現実的に対応するべきかを真剣に討議する必要があると考える。ソ連の崩壊、中国のWTO加盟以降のアジア地域の政治経済が、中国の、単なる解放経済体制ということを超えた資本の対外投資、企業進出が急速に拡大することによって大きく変貌しようとしてる。アジアにおける階級闘争の方向性を考えるとき、この「東アジア共同体」をめぐるこれからの流れを照準にあわせる必要がある。

 

参考までに現在世界にある地域協定は以下の通りである。

NAFTA:米国、カナダ、メキシコ

EFTA:リヒテンシュタイン、ノルウェー、アイスランド、スイス

AFTA:カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、インドネシア、タイ

EU:フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、イギリス、アイル ランド、デンマーク、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、スウェーデン、フィ ンランド(二〇〇五年には二五カ国体制となる)

 ひとつに結び付けられる革命へ

 今日の経済的諸関係はますます緊密に諸国間を結びつけ、階級闘争を国際的関連の中に性格付けることとなっている。したがって、ますます先進国においても、中進資本主義、後進資本主義においても同時革命の性格を強めている。それは、安全保障という形で、ブルジョアジーが政府間の革命に対する連合が形成されることによって現実の壁となる。国民の平和と安全と秩序を断固として守るのだ、と声高に叫びながら、今日の国際テロ組織に対抗するのだとして作り上げられている、ソ連、中国をも含んだ国際的協力の背後には、資本主義体制を根本から脅かすプロレタリア革命に身構えた本当の姿が見え隠れしている。

 他方、一九六〇年代のナセル路線に代表されたように、後進国が資本主義的発展を経ずに、社会主義国と結ぶのであれば社会主義に移行可能である、としたソ連主導の幻想的移行路線が破綻する中から、戦後第二の革命期におけるイラン革命をはじめとして、中東を中心としてイスラム原理主義が台頭し、人民の生活に浸透していった。それは一方でのアメリカ主導の近代化路線、他方ソ連主導の移行路線の両者の破綻の反動として急速に台頭したものであると同時に今日の国際経済網から見捨てられた地域となって、構造的に停滞を余儀無くされていることを経済的背景としている。このような過程にあるこの地域に、再び労働者階級の革命的運動が発達するには困難な道程が予測され、時間がかかると思われる。先進国からの反作用に中でしか前進し得ないであろうからである。

 今日において国際経済網の四肢とは如何なる地域となるのか。一定の資本主義的発展がありつつ開発が遅れている諸国、または、資源産出国であって、低開発に固定されている諸国、これらとしては南アメリカ諸国、アジアのASEAN諸国、東ヨーロッパ、中東、等々があげられる。国際連帯のあり方はこれらの国々の人民の闘争と先進国階級闘争が結合する方向で、かつ、「社会主義」諸国の労働者人民と結ぶものでなければならない。戦後第二期の永続革命の課題は、先進国、中・後進国を貫く同時革命の内容を再度獲得することにあると考える。

 永続革命=世界革命を二段階として捉えることは、たとえソ連の崩壊という事態があったとしても変える必要はない。

 たしかに、この永続革命の後期における、さしあたり一国的革命の勝利から(前期)先進国革命へ(後期)への過渡の時期としてこれまでの段階的把握を行ってきた。この過渡としての時代把握は、一九九〇年のソ連の崩壊から中国のWTO加盟という現実をうけて大きく変化した。われわれは、ソ連、中国を世界革命の根拠地として考えてきたわけではない。再度プロレタリア革命を必要とすると考えてきた。だが、社会主義革命の世界的歩みが大きく後退したことは否めない。

ゆがめられ、おとしめられたプロレタリア革命を再度根底から再生することによってソ連の崩壊過程を越えて行くことができなかったという意味において、大きな意味で全世界のプロレタリアートは失敗した。そのことをふまえて、再度プロレタリア革命を永続革命として前進させる戦略の再構築が必要である。それは、再度、レーニン主義、スターリン主義、トロツキー主義、毛沢東主義、さらにイスラム原理主義をも対象化しての全面的な批判止揚の上に組み立てられねばならない。新旧の小ブル社会主義の内容的混乱と没落が著しい中で、マルクス主義の真に革命的な力を突き出さなければならないと考える。根本的本質的な力でないかぎり、この重たい世界の現状を穿つことはできないからである。

世界市場の廃棄へ向けての国際的連帯、世界資本主義として組織された現代資本主義の賃労働と資本の両極を廃棄するための運動、労働者が賃金奴隷として己の精神的・肉体的諸能力を切り刻み、売りに出すことによってしか生活できないような賃金奴隷社会そのものを人間的社会に変革する世界的規模での歴史的運動として、プロレタリアートの永続革命があり、ますます先進国同時革命(中・後進国同時革命を含む)の時代に入りつつある。

今日、先進資本主義国と後進資本主義国の関係は、同じ経済の波動の中にはない。後進国の経済は戦後第二の革命期以降、荒廃してしまっている。原油産出国においてさえ国民総生産は大きく下落している。ましてそれ以外は圧倒的に被援助国に転落している。多くの国では貧困が引き金となって部族間戦争、宗教的対立が激化して産業が更に反作用的に崩壊している。このようにして世界の富の九割を世界人口のわずか二割の人口が所得し、国際的階層間格差は約七十倍となっている。極端に富の偏在が生まれている。先進国はその富のほんの一部を援助資金として被救援国に吐き出しているにすぎない。

 後進諸国における貧困と失業、先進諸国における構造的停滞性と大量の失業、その社会が繰り返し一方における富の集積と他方における貧困の拡大に向かい、財政困難によってますます社会保障が行き届かないようになる沈み行く社会となってゆきつつある。余剰資本が資本の再生産に投下されずに、産業から浮遊して金利を求める「マネー」の嵐となって徘徊するようになった時代である。鉄鋼、化学産業から自動車を始めとする大型消費材が生産の中心となっている時代へ移行したが、その次が見出せない、すなわち基軸産業の転換が行いえない。資本主義システムの活力であるはずの資本の自己増殖ができないところに今日の資本主義の根深い危機がある。資源再々開発と、後進国の遅れて始まった大量消費と、後進国の低賃金構造から生み出される低コスト部品、製品の為替差益による収益とに依存しているだけの今日の資本はその先がないのである。

後進国との所得格差が七十倍もある先進国に大量の外国人労働者が流入する現象は今後とも続くことになる。現在中国との格差は三十倍である。オーストラリアに見られるアジア人排撃の排外主義は、同じく日本においても、外国人による犯罪の多発を表向きの理由として非白人外国人に対する排外主義が醸成されつつある。外国人労働者問題が重要な課題となったヨーロッパ階級闘争に遅れながら日本においても外国人労働者問題、難民問題はこれからますます重要な課題となる。戦後第二期の世界資本主義の中で、あらたな国際連帯の質が問われて行くからである。このこととリージョナリズム=地域主義をにらんだ国際的戦略陣形の内外を貫いた構築こそが問われている。

更に重要なこととして独占の企業合併、企業買収による国境を越えた巨大化と多国籍企業化の問題がある。

一部には現在の独占を、第三段階目の多国籍独占の段階であるとする意見がある。私的独占段階から国家独占の段階を経て、八十年代以降第三段階であるとしている。レーニン帝国主義論が帝国主義の本質を独占に見てとったのであるが、それにならって、独占の第三段階目であるという規定である。むしろこの問題は、国家独占資本主義の多国籍企業化傾向として捉えるべきであろう。多国籍企業の傾向は、当初アメリカの資本が技術管理政策、産業政策として海外直接投資による子会社設立をすすめ、技術力によって国際的に収益をむさぼる方策として開始された。現在では先進国の独占は多国籍企業を普通の形態としている。このことによって、広く国際的な労働市場を生み出すのであるが、きわめて制限された労働者の権利と低賃金におさえられ、同時に中・後進国の低賃金構造を利用して母国労働者の賃金を抑制すると同時に生産流通部門のみならず技術開発部門さえ移転する可能性をつきつけることによって労働に対する支配力を強めている。さらに環境規制のゆるい地域に生産拠点を移し、破壊作用を全世界に広げている。

このような資本の多国籍化に対する国際的な労働の側の国境を越えた闘いが必要であると同時に、敵に対する闘争の構造そのものが現実的波及力を相互に持つ時代にある。

グローバル経済化現象の中にあるリージョナリズムを如何に掴むのかということは、革命戦略の国際的性格を、たとえば欧州の一つの革命ということが現実的になりつつある時代に、アジア、又は東アジアにおいていかなる路線とするのかという課題としてつきつけられている。

世界市場の構造上、「G7」を中心とする先進国における階級闘争が相互に結び付けられ一つの波となる必然にある時代であると同時に、東アジア規模の国際連帯、東アジア規模の労働者革命の波を対象化した二重の円を描く国際戦略が立てられなければならないと考える。この戦略に基づいて、現実に進行する経済的政治的変化に媒介的にかかわる方針を築かねばならない。東アジア共同体は如何なる性格に於いて肯定されるのか、いかなる事項に於いて否定されるのか。直接的にプロレタリア革命と単線的に繋がることではないが、国際的階級形成の前進となる諸方策となるという意味で、階級闘争を前進させる方策を幾重にも媒介しながら国際的戦いの戦線を再構築してゆかなけれならない。そういう性格の現実方針を思考することが今日必要であると考える。

ポイントのみを概括しただけで、分析できていなのであるが、現状分析における一つの視角としてとりあえず提起するものである。          (二〇〇三・十一・二七)